はじめに
小さなころ、守られていたあの手を、
今、自分が支える立場になっている。
高齢になった親を支え、
介護という現実と向き合うこと。
それは、
- 愛情だけでは乗り越えられない葛藤
- 責任感と疲労のはざまで揺れる心
- ときに、言葉にできない寂しさ
――そんな複雑な想いを抱えながら歩む、長い旅路です。
アドラー心理学は、
どんな人間関係も、
対等な横のつながりと課題の分離を大切にすることで、
より健やかに乗り越えられると教えています。
ここでは、親族介護によく起きる3つの葛藤をもとに、
アドラー流のあたたかい向き合い方を一緒に考えていきましょう。
1. 介護の責任感で押しつぶされそうになるとき
◇こんな気持ち、抱えていませんか?
「私が頑張らなきゃ」
「でももう限界かもしれない」
- 仕事をしながら
- 自分の家庭を守りながら
- そして介護も――
そんな日々に、
疲れきってしまうこともありますよね。
◇アドラー心理学での見立て
アドラー心理学では、
人は誰でも自分の人生の舵を自分で握るべき存在だと考えます。
つまり、
- 親の人生は親の課題
- 子どもは、親を支援できる範囲で支援するが、すべてを背負う必要はない
という線引きがとても大切なのです。
◇あたたかい解決アプローチ
【ステップ1】「できること」と「できないこと」を整理する
無理にすべてを引き受けず、
- できること
- できないこと
を冷静に仕分けましょう。
そして、「できないこと」は支援サービスや周囲に頼ってOKです。
【ステップ2】完璧を目指さない
介護は、理想通りにいかないことがほとんどです。
「できる範囲で、できるだけ」
と、自分に優しく声をかけましょう。
それで十分、あなたは親を支えています。
【ステップ3】自分自身のケアを最優先に
疲れたときには、
- 短時間でも休む
- 好きなことをする
- 誰かに弱音を吐く
自分の心身を守ることは、介護を続けるために必要不可欠なことです。
2. 親との関係がぎくしゃくしてしまうとき
◇こんな気持ち、抱えていませんか?
「介護をしているのに、感謝もされない」
「口うるさく文句ばかり言われて、心が折れそう」
一生懸命尽くしているのに、
なぜかイライラが募ってしまう。
そんな自分を責めて、ますます苦しくなることもありますよね。
◇アドラー心理学での見立て
アドラー心理学では、
他人の感情や態度は他人の課題と考えます。
つまり、
- 親が不機嫌であること
- 親が感謝を示さないこと
それはあなたの責任ではありません。
あなたが向き合うべきなのは、
自分がどう在りたいかだけです。
◇あたたかい解決アプローチ
【ステップ1】「親の感情は親の課題」と割り切る
親の言動に一喜一憂しすぎず、
心のなかでこうつぶやいてみてください。
「これは親の課題。私は私の役割を果たそう」
心に小さな境界線を引きましょう。
【ステップ2】感謝を求めず、自分を認める
親からの感謝や評価を期待しないこと。
代わりに、
「今日もよくやったね」
と自分で自分を労う習慣を育てましょう。
【ステップ3】感情を無理に抑えず、吐き出す場をつくる
- 友人に話す
- 介護者向けのサポートグループを利用する
- 日記に書き出す
感情を押し殺さず、
吐き出して整理することが、心の健康を守ります。
3. 介護をめぐる家族内の温度差に悩むとき
◇こんな気持ち、抱えていませんか?
「兄弟姉妹で負担の差が大きい」
「自分ばかり頑張っている気がする」
介護は家族全体の問題なのに、
実際に動くのは一部の人だけ――
そんな不公平感に、心がすり減ってしまうこともありますよね。
◇アドラー心理学での見立て
アドラー心理学では、
他人に期待を押しつけるのではなく、
自分ができることに集中することを勧めます。
他人(家族)がどう動くかは、
自分がコントロールできない課題なのです。
◇あたたかい解決アプローチ
【ステップ1】「自分ができること」にフォーカスする
誰かが協力しなくても、
自分ができる範囲で支援することに集中しましょう。
「私は私のできることをやっている」
それだけで十分です。
【ステップ2】必要なことは具体的に頼む
ただ不満をため込むのではなく、
「この日だけサポートしてほしい」
「この手続きはお願いできる?」
と、具体的なお願いをしてみましょう。
「察してほしい」ではなく、伝える勇気が大切です。
【ステップ3】自分の人生も大切にする
介護は大事なことですが、
あなた自身の人生も、同じくらい大切です。
- 自分の時間を持つ
- 趣味を楽しむ
- 夢をあきらめない
親を支えながら、自分自身も幸せになる道を歩んでいきましょう。
まとめ
親族介護は、
愛情だけでは乗り越えられない、
長く、深いテーマです。
でも、アドラー心理学は教えてくれます。
- 誰かを支えるときも
- 自分を大切にするときも
- すべては横のつながりから始まる、と。
無理をしないでいい。
孤独を抱え込まないでいい。
今日あなたがかけたひとつの手間も、
そっと添えた優しさも、
必ず誰かの心に届いています。
あなたは、ひとりじゃありません。
この旅路も、少しずつ、仲間と支え合いながら歩いていきましょう。