このサイトでは、アドラー心理学について、「5つの理論(基礎理論)」「5つの実践(応用理論)」に加え、横断的に関係している「7つの重要なキーワード」という三つの切り口に沿って、整理しながら解説しています。
このページの中ではそれぞれの理論・キーワードを完結に説明していて、詳細はそれぞれのページにてご確認ください!全体像を把握するための見取り図としてご活用いただければと思います。
全体像 – アドラー心理学の特徴
オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーによって確立された理論で、「人間の悩みはすべて対人関係のなかで生じる」という徹底した社会性の視点を特徴とした心理学です。また、別名「勇気の心理学」と呼ばれています。アドラー自身が提唱した“Encouragement(勇気づけ)”の概念を中心に、人が対人関係のなかで自分を信じ、前向きな選択をしていくことを強調するからです。
たとえば、失敗や劣等感を避けるのではなく、その克服に立ち向かう「勇気」を見いだす姿勢こそが人間の成長を促すとアドラーは考えました。このように、行動を起こすための内発的な力や、“他者を勇気づける”働きかけを重視する点が、アドラー心理学を「勇気の心理学」と呼ぶ理由となっています。
過去のトラウマよりも未来の目的に焦点を当てる目的論や、環境に左右されるのではなく自分自身が行動を選ぶという自己決定性を重視する点が、日本で有名なフロイトや行動主義と一線を画しているといえるでしょう。さらに、個人を心身や思考・感情に分割せず、一体として捉える全体論や、劣等感を建設的に活かす補償の考え方も特徴的です。
最終的には「共同体感覚」を育み、他者との協力や貢献を通じて自己を成長させるという理想がゴールになっていて、教育や子育て、ビジネスなど多様な領域で応用されています。報酬や罰による外発的動機づけよりも、相手を「勇気づけるアプローチ」こそが、アドラー心理学の神髄です。
ここからは5つの前提、5つの実践、7つの重要なキーワードに分けて詳しく、分かりやすく解説していきます!
5つの前提(基礎理論)
【理論1】目的論 (Teleology)
- 概要
アドラーは、「人の行動は過去の原因よりも未来の目的によって方向づけられる」と考えました。フロイトのような過去(トラウマ)重視ではなく、「こうなりたい」「こうありたい」という目標が現在の行動を決定しているという視点です。 - ポイント
- 過去にとらわれず、「これからどう行動するか」を重視する
- 劣等感も「克服したい」という目的があれば、成長の原動力となり得る
【理論2】全体論 (Holism)
- 概要
人間を心と体、思考と感情などに分割せず、社会も含めて**一つのまとまり(ホリスティック)**として見る立場です。一部分だけを取り出して説明するのではなく、環境・対人関係・内面の統合を重視します。 - ポイント
- 個人は社会と切り離せない存在
- 心と体・思考と感情が相互に影響し合う
【理論3】認知論(私的論理)(Subjective Perception / Private Logic)
- 概要
人は客観的事実だけで動いているのではなく、それをどのように主観的に解釈しているか(私的論理)が行動や感情を生む。 - ポイント
- “現実”よりも“本人の解釈”が重要
- ライフスタイル(後述)や劣等感・優越感の捉え方にも直結する
【理論4】対人関係論 / 社会的文脈の重視 (Social Embeddedness)
- 概要
アドラー心理学では「人間の悩みはすべて対人関係のなかで起きる」と言われるように、個人は社会・他者と不可分とみなされます。 - ポイント
- 対人関係抜きに人を理解できない
- 共同体感覚の背景:他者を仲間ととらえる発想
【理論5】自己決定性 (Self-determination / Creative Self)
- 概要
「人は環境や遺伝によって決定されるのではなく、最終的には自分で選択している」という考え方。過去や外部要因は影響しても、最終的には自分が今どう動くかを決める主体であるという姿勢です。 - ポイント
- 原因論を否定し、「自分が決める」余地を重視
- 創造的自己(Creative Self):人は自分を作り変える力がある
5つの実践(応用理論)
【実践1】ライフスタイル (Life Style)
- 概要
幼少期の体験や家族関係などを通じて形成された「世界観・自己観・対人観」の一貫したパターン。アドラー心理学における行動や思考の“取扱説明書”ともいえます。 - ポイント
- 幼少期の経験や主観的解釈が核
- 行き詰まりの原因を探るには、自分のライフスタイル分析が効果的
【実践2】共同体感覚 (Community Feeling)
- 概要
「自己受容」「他者信頼」「貢献感」の3つの要素からなる、社会のなかで自分を仲間の一員と感じ、積極的にかかわろうとする感覚。アドラーが目指した理想の対人姿勢です。 - ポイント
- 「自分が必要とされている」「他者にも信頼されている」と思えるとき、人は安心して成長できる
- 横の関係のベースとなる視点
【実践3】勇気づけ (Encouragement)
- 概要
罰や報酬ではなく、相手の内面にある意欲を引き出す関わり方。失敗を責めるのでなく、「次はどうする?」と前向きな学びにつなげるのが特徴。 - ポイント
- 人の自発性を育てる
- お互いを対等な仲間として扱う(横の関係)
【実践4】課題の分離 (Separation of Tasks)
- 概要
「これは誰が最終的に責任を負う課題か」を整理し、相手の領域と自分の領域を混同しない考え方。過度な干渉や依存を防ぎ、相互尊重を育む。 - ポイント
- 子育てや職場でのトラブルを減らす具体策
- 相手の課題まで抱え込まない/押しつけない
【実践5】人生の三つの課題 (Three Life Tasks)
- 概要
アドラーは、人が社会で直面する主要課題として「仕事(社会)」「交友(友情)」「愛(パートナーシップ)」を挙げました。これらをどう乗り越えるかが人生の充実に直結します。 - ポイント
- すべて対人関係が絡む課題
- 共同体感覚がカギとなる
7つの重要キーワード
【重要ワード1】優越コンプレックス (Superiority Complex)
- 概要
劣等感を隠すために、自分を大きく見せようとする心理。過剰な自慢や他者を見下す態度が典型的です。 - ポイント
- 劣等感と表裏一体
- 共同体感覚と相容れない防衛機制
【重要ワード2】補償 (Compensation)
- 概要
劣等感を建設的に克服しようとする動き。努力や工夫で弱点を補い成長する場合もあれば、歪んだ方向(優越コンプレックス)に向かう場合もあります。 - ポイント
- 劣等感が原動力にもなり得る
- 勇気づけが健全な補償を後押しする
【重要ワード3】バースオーダー (Birth Order)
- 概要
兄弟構成(長子、中間子、末っ子、一人っ子など)がライフスタイルに影響するという考え方。あくまでも「なりやすい傾向」です。 - ポイント
- 幼少期の家族内での立ち位置が性格・行動に関係
- 固定的な運命論ではなく参考程度に
【重要ワード4】横の関係 vs. 縦の関係
- 概要
人間関係を「相互尊重・対等」の横の関係と、「上下・支配」の縦の関係に分け、アドラーは横の関係を理想とみなします。 - ポイント
- 縦の関係は劣等感・優越感を生みやすい
- 横の関係は共同体感覚や勇気づけに適している
【重要ワード5】早期回想 / 初期記憶 (Early Recollections)
- 概要
幼少期に強く印象に残っている記憶のこと。ライフスタイルや私的論理を読み解く手がかりとされます。 - ポイント
- なぜ今もその記憶だけを覚えているか
- 過去の原因より、「今の目的」が記憶を利用している
【重要ワード6】共同体感覚 vs. 私的論理
- 概要
「他者を仲間とみなす広い視点(共同体感覚)」と、「自分の独善的解釈(私的論理)」は対立しがち。どちらに重心を置くかが人生の質を左右します。 - ポイント
- 私的論理に閉じこもると孤立・衝突が増える
- 共同体感覚が育つと貢献意識や自己受容が高まる
【重要ワード7】勇気づけと罰・報酬の対比
- 概要
人を行動させるアプローチとして、罰・報酬などの外的動機づけではなく、「相手の内面にある力を信頼し、引き出す」勇気づけがアドラーの推奨する方法。 - ポイント
- 罰や報酬は長期的効果が薄く、恐怖や依存を生みがち
- 勇気づけは自発性・自己決定性を育てる
まとめ
- 5つの前提理論(基礎理論)
目的論、全体論、認知論(私的論理)、対人関係論、自己決定性(アドラー心理学の土台となる「人間はこう捉えるべきだ」という根本思想) - 5つの実践理論(応用理論)
ライフスタイル、共同体感覚、勇気づけ、課題の分離、人生の三つの課題)日常生活で使える具体的な考え方・ツール) - 7つの重要なキーワード
優越コンプレックス、補償、バースオーダー、横の関係 vs. 縦の関係、早期回想、共同体感覚 vs. 私的論理、勇気づけと罰・報酬の対比
アドラー心理学を学ぶ際には、まずは基礎理論を押さえ、次に応用理論を実践で試してみるのがおすすめです。さらに今回紹介した7つのキーワードに目を向けることで、劣等感や優越コンプレックスなどの核心的テーマをより立体的に理解できるでしょう。全体像をつかんだ上で、自身の人生や対人関係にあてはめてみると、アドラー心理学の持つ「自己決定性」「共同体感覚」というエッセンスが、より深く体感できるはずです。