●はじめに
アドラーは「劣等感」は必ずしも悪いものではなく、成長や努力の源泉になる場合もあると考えました。そこで鍵となるのが「補償 (Compensation)」という概念です。補償とは、自分が劣等だと感じる領域を、別の力や能力の伸長によってバランスを取り、克服しようとする心理的プロセスを指します。
●建設的な補償と歪んだ補償
- 建設的な補償: 劣等感を原動力に、「努力して不足を補おう」「自分なりに工夫しよう」と建設的に活かすプロセス。
- 歪んだ補償: 努力ではなく他者への攻撃や優越コンプレックス、被害者意識など、ネガティブな形で劣等感を覆い隠すこと。
建設的な補償は自己成長につながりますが、歪んだ補償は対人関係を損ねたり、本人がさらに劣等感を強める悪循環を招くことがあります。
●具体例
- 身体的劣等感を克服: 体が弱いと感じた人が、リハビリや適度な運動を重ねてスポーツ選手として活躍するようになるケース。
- 学力への不安: 勉強が苦手だと感じる人が、反復練習や自分なりの学習法を見つけることで学業成績を向上させる。
どちらも、劣等感そのものをエネルギーに変えている好例です。
●勇気づけとの関係
アドラー心理学では、劣等感を建設的に補償するためには「勇気づけ」が欠かせないとされます。周囲や本人自身の励ましがあれば、「もっとやってみよう」「自分にも可能性があるはずだ」という前向きな気持ちが育つため、補償がプラス方向に働きやすくなるのです。
●まとめ
補償とは、人が感じる劣等感を“糧”にして成長するための心理プロセスを指します。ただ、その補償が健康的に機能せず、優越コンプレックスや攻撃性といった歪んだ形をとれば、対人関係や自己肯定に悪影響を及ぼします。建設的な補償を促すためには、劣等感を素直に認めつつ、勇気づけと努力によって自分の可能性を伸ばしていく姿勢が大切です。