人の評価が気になって意見を言えない、家族につい口を出してしまう、人と比べて落ち込んでしまう。そんな悩みをきっかけに、アドラー心理学に興味を持った方もいるのではないでしょうか。
このアドラー心理学入門では、目的論や課題の分離などの基本を、日常の具体例とともに解説します。用語を暗記することよりも、自分を責めずに行動の選択肢を増やすことを目指して読み進めてみてください。
アドラー心理学とは?最初に知っておきたい基本
初心者の方は、まずアドラー心理学が人間をどのように理解するのかを押さえましょう。印象的な言葉だけを切り取るより、考え方のつながりを意識することが大切です。
ここでは、人を一つのまとまりとして捉える視点と、行動の目的に目を向ける視点を紹介します。自分や相手を分類するための知識ではなく、困った場面で別の関わり方を考えるための手がかりとして読んでみてください。
人を丸ごと捉え、社会とのつながりを考える心理学
アドラー心理学は、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーが創始した心理学で、個人心理学とも呼ばれます。ここでいう個人とは、他人と関わらずに生きる存在ではなく、思考や感情、行動を切り離せない一つのまとまりとして捉える言葉です。
また、アドラーは人を理解するとき、家族や職場などの社会的な関係を重視しました。本人の内面だけでなく、誰とどのような状況にいるのかにも目を向けるのが特徴です。
例えば、会議で発言しない人を見ても、すぐに消極的な性格だと決めつけないようにしてみましょう。準備の時間が足りないのか、話す順番がつかめないのか、否定されることを心配しているのか、まず本人に確かめる余地があります。
自分について考える場合も、私は何をしても駄目だという大きな評価から、特定の場面で何に困っているのかという具体的な問いに置き換えてみてください。人格そのものを変えようとするより、発言内容を一つメモする、事前に質問を伝えるなど、試せる行動を考えるところから始めましょう。
目的論は「何のための行動か」に注目する考え方
目的論とは、行動を過去の原因だけで説明するのではなく、その行動がどのような目標に向かっているのかにも注目する考え方です。その目標は、本人がいつも自覚しているとは限らず、理解のための仮説として慎重に扱う必要があります。
例えば、提案書の提出を先延ばしにしているとき、私は怠け者だからと結論づける代わりに、提出すると何が心配なのだろうと問いかけてみます。もし不十分な内容を批判されることが気になっているなら、完成まで抱え込む以外に、途中の案を見てもらう方法も考えられます。
この場面では、先延ばしの目的を見抜くことより、本人が困っていることを確かめ、次にできる行動を探すことを優先しましょう。単に作業量が多い場合もあるため、どんな行動にも一つの心理的な目的を当てはめない姿勢が大切です。
また、目的に目を向けることを、過去のつらい経験や現在の環境を軽視する理由にしてはいけません。これまでの経緯を大切にしながら、今の条件で選べることは何かと考える使い方を心がけてください。
劣等感と勇気づけから、自分への接し方を見直す
基本を学んだら、次は自分をどう理解し、どう支えるかを考えてみましょう。他人への接し方を変える前に、自分への評価が厳しくなりすぎていないかを振り返ってみてください。
ここでは、劣等感やライフスタイルという用語と、勇気づけの考え方を扱います。劣等感をすぐになくそうとするのではなく、何を大切にしているのかを確かめ、今の自分に可能な一歩を見つける読み方がおすすめです。
劣等感を人格の評価にせず、思い込みに気づく
アドラー心理学では、自分が不十分だと感じる劣等感と、それを補おうとする努力に注目します。また、自分や世界についての捉え方、目標への向かい方など、その人に特徴的な傾向をライフスタイルと呼びます。
例えば、人前で説明することが苦手だと感じたとき、説明の順番を練習するという取り組み方が考えられます。一方で、一度も言い間違えてはいけないと考えているなら、技術の練習だけでなく、その基準が厳しすぎないかを見直してみましょう。
振り返る際は、実際に起きた出来事と、自分がつけた意味を分けて書く方法を試してみてください。質問に一度答えられなかったという出来事と、全員から能力がないと思われたという解釈を、同じ事実として扱わないことがポイントです。
次に、分からない点は確認して後から答えてもよい、といった別の基準を自分に提案してみます。他人より優れているかどうかだけで判断せず、以前より説明を整理できたか、必要な確認を行えたかという、自分で確かめられる行動に目を向けてください。
勇気づけは、評価よりも努力と協力に目を向ける
勇気づけは、相手への尊重やつながりを大切にし、困難に取り組む力を支えようとする関わり方です。アドラー心理学の教育実践でも、学ぶ人を能力と主体性のある存在として扱い、尊重される関係をつくることが重視されています。
例えば、同僚が資料を整えてくれたら、優秀だねという評価だけで終える代わりに、比較表があったので違いを確認しやすかったと伝えてみましょう。相手のどの行動を受け取り、それがどう役立ったのかを、具体的な言葉にする練習です。
うまくいかなかった場面では、無理に良いところを探して褒める必要はありません。難しかった部分を一緒に確かめ、ここまでは進められたね、次はどこを手伝ってほしい、と本人の考えを尋ねる方法もあります。
自分に対しても、結果だけで合否をつけるのではなく、準備したことや相談できたことを振り返ってみてください。勇気づけを都合よく動かすための言い回しにしないよう、相手が断ることや別の方法を選ぶことも含めて尊重する姿勢を大切にしましょう。
課題の分離と共同体感覚をセットで理解する
人間関係を考えるうえで、課題の分離はぜひ整理しておきたいテーマです。ただし、相手の問題だから知らないと突き放すための言葉として使わないよう注意しましょう。
ここでは、誰が決めることなのかを確かめる視点と、互いに協力する視点をつなげて解説します。相手の代わりにすべてを引き受けることと、何も関わらないことの二択にせず、どこまでなら手伝えるかを話し合うために活用してください。
課題の分離は、責任と協力の範囲を整理すること
課題の分離では、まず、その問題に本来誰が取り組むのかを明確にします。必要な場合には共同の課題として扱い、本人の取り組みに周囲がどう協力するかを考えるところまでが重要です。
例えば、友人から転職について相談されたら、情報を一緒に整理したり、希望を聞いたりすることはできます。ただし、最終的な選択を代わりに決めたり、助言どおりに動くよう強く迫ったりしないよう、関わり方を確かめてみましょう。
判断に迷ったら、誰が選ぶことか、その結果は誰に影響するか、自分にはどんな役割があるかを順に考えてください。家族やチームのように影響を共有する関係では、一人の課題と決めつけず、約束や担当を話し合うことも必要です。
相手がどう感じるかを完全に自分の思いどおりにすることは、実践の目標に置かないようにしましょう。その代わり、丁寧に説明する、できない範囲を伝える、相手の意見を聞くなど、自分が担う部分を具体的にし、無関心ではない境界線をつくってみてください。
共同体感覚は、自分も相手も大切な一員だと考える視点
共同体感覚は、自分が人とのつながりの中にいるという所属の感覚と、他者や社会のために協力しようとする姿勢に関わる概念です。アドラー心理学では、他者とのつながりや貢献が重要な位置を占めています。
日常で考えるなら、目立つ成果を出すことだけを貢献にしないところから始めてみましょう。共有物を元に戻す、必要な連絡をする、相手の話を最後まで聞くなど、身近な協力の形を探してみてください。
ただし、役に立ったと実感できない日には価値がない、と自分を採点するために使うべきではありません。この記事では、自分も相手も大切にするという出発点を忘れず、余裕がないときには助けを求めることも選択肢に含める実践を勧めます。
課題の分離と合わせるなら、相手の選択を奪わず、必要な場面では支え合う関係を目指してみましょう。どこまで手伝えばよいかを推測だけで決めず、今は話を聞いてほしいのか、一緒に方法を考えてほしいのかと尋ねるところから、具体的な協力を始められます。
職場と家庭で試すアドラー心理学の実践例
考え方が分かっても、いざ会話になると言葉が出てこないこともあるでしょう。最初から関係全体を変えようとせず、一つの場面で一つの言い方を試すことを目標にしてください。
ここでは、職場で評価が気になる場面と、家庭で相手に行動してほしい場面を例にします。いずれも決まった正解ではないため、自分と相手の立場、これまでの約束、その日の余裕に合わせて調整しながら使ってみましょう。
職場では、相手の評価と自分の改善行動を分ける
上司の反応が気になって提案できない場面では、評価を気にしない人になることを目標にせず、提案前にできる準備を具体化してみましょう。例えば、結論を一文にする、根拠を二つ確認する、不明点を明示するなど、自分で取り組む内容を決めます。
そのうえで、相手が必ず賛成してくれるかどうかと、必要な説明をしたかどうかを分けて振り返ってください。反対意見が出たときも、自分全体を否定されたと結論づける前に、費用、時期、実現方法のどこが問題なのかを尋ねてみます。
追加の仕事を頼まれた場合は、ただ断るか、無理をして引き受けるかの二択にしない言い方を考えましょう。今は先の案件に取り組んでいるので、こちらを優先するなら期限を調整したい、と作業の状況と相談したい点をセットで伝える方法があります。
同僚への協力も、何でも代わりに行うより、十五分なら確認できる、最初の手順なら一緒に整理できると範囲を示してみてください。実践後は、相手を変えられたかではなく、自分の状況を説明できたか、必要な協議を始められたかという観点で振り返りましょう。
家庭では、指示の前に状況と本人の考えを聞く
子どもが宿題を始めない場面では、やる気がないと判断する前に、何が難しいのかを尋ねてみましょう。問題の意味が分からない、必要な道具が見つからない、いつ取り組むか決められないなど、まず本人の説明を聞くところから始めてください。
そのうえで、何時から始めたいか、最初の一問を一緒に確認するかなど、本人が考えられる範囲で選択肢を示してみます。課題を本人に返すという理由で放置せず、年齢や状況に合わせて、環境づくりや必要な手助けを担う姿勢を持ちましょう。
パートナーとの家事分担なら、どうしていつも私ばかりなのという不満を、夕食後の片づけが続いて負担なので、今日は食器を洗ってほしいという具体的な依頼に置き換えてみてください。依頼した後は、相手にも都合を話してもらい、その場限りのお願いか、今後の分担の相談かを明確にします。
話し合いが難しくなったら、正しい理論で相手を説得しようとせず、いったん時間を置く選択も考えてみましょう。相手を動かすことを成功の条件にせず、お互いの困りごとを言葉にし、無理のない合意を探す過程を大切にしてください。
初心者が無理なく学び、実践を続ける方法
アドラー心理学入門で大切にしたいのは、知識の量を増やすことだけではありません。自分の生活に照らして考え、合わない使い方を見直すことも学びの一部と捉えましょう。
最後に、短い振り返りの方法と、実践するときに避けたい使い方を紹介します。毎回うまく対応することを求めず、以前とは違う言葉を一度使えた、相手の話を先に聞けたといった、小さな試みを確かめながら進めてください。
一つの出来事を短く記録し、次の行動を決める
学び始めは、目的論、勇気づけ、課題の分離を一度に使いこなそうとせず、気になるテーマを一つ選びましょう。例えば、今週は相手の気持ちを決めつけずに尋ねる、と日常で確認できる行動に置き換えてみてください。
振り返りには、実際に起きたこと、自分が考えたこと、自分にできることを短く書く方法を提案します。友人から返信が来なかった、嫌われたのかもしれないと思った、急ぎなら用件と期限を伝える、と項目を分けるだけでも構いません。
そこから別の解釈も一つ考え、まだ分からないことを分からないままにしておく練習をしてみましょう。相手は忙しいのかもしれないと考えても、それを新しい事実にはせず、必要なら本人に確認するという行動につなげてください。
記録の最後には、次回は依頼を具体的にする、手伝える範囲を伝えるなど、小さな行動を一つ添えます。一週間ほど試したら、気づいた点や難しかった条件を読み返し、自分を採点するのではなく、続けることと調整することを決める材料にしましょう。
理論を押しつけず、一人で抱え込まない
学んだ言葉を使うときは、それはあなたの課題だ、あなたは失敗を避けたいだけだと、相手を一方的に説明しないよう注意してください。会話では専門用語を持ち出すより、私はここまで手伝える、何が心配なのか聞かせてほしいと、具体的な言葉を選んでみましょう。
また、嫌われることを恐れないという考え方を、わざと相手を傷つけたり、必要な説明を省いたりする口実にしないことも大切です。全員の賛成を得ることとは別に、約束を守る、間違いを認める、相手の事情を聞くといった行動は、自分の側で検討してください。
うまく実践できないときも、勇気が足りないと自分を責めるのではなく、負担が大きすぎないか、協力を求められる相手がいないかを考えてみましょう。一人で整理するのが難しい困りごとは、信頼できる人や相談先に、具体的な出来事として話してみてください。
アドラー心理学を学ぶ際は、すべての問題を一つの理論で解決しようとせず、自分と相手を尊重するための視点として使うことを勧めます。まずは今日の会話を一つ振り返り、明日、自分が選べる小さな行動を一つ決めるところから始めましょう。
よくある質問
アドラー心理学は何から勉強すればよいですか?
初めてなら、用語をまとめて暗記するより、今の困りごとを一つ選び、関係する考え方から読んでみてください。人の評価が気になるなら課題の分離、自分への評価が厳しいなら勇気づけの章を入口にするとよいでしょう。
読んだ後は、印象に残った内容を自分の言葉で短く書きます。さらに、明日の会話で何を試すかまで具体化してください。
一つの説明だけで相手の心理を決めつけず、実際の状況と照らし合わせながら学ぶことをおすすめします。分からない用語は、具体例に戻って確認しましょう。
課題の分離をすると、冷たい人になりませんか?
実践するときは、誰の問題かを分けるだけで会話を終えず、自分が協力できる範囲まで伝えてみてください。例えば、最終的にはあなたが決めることだけれど、情報を整理する時間は一緒につくれる、という言い方です。
助言を望んでいるのか、話を聞いてほしいのかを尋ねてもよいでしょう。相手の選択を尊重することと、関心を持って関わることの両方を目標にしてください。
家族やチーム全体に影響する問題なら、一方的に線を引かず、分担や約束を話し合うところから始めましょう。
勇気づけをするなら、相手を褒めてはいけないのでしょうか?
日常の会話で、褒める言葉をすべて禁止する必要はありません。言葉の形だけを気にするより、相手を評価して動かそうとしていないか、本人の考えを聞いているかを振り返ってみてください。
例えば、すごいねに加えて、どこを工夫したのかを尋ねたり、手伝ってもらって助かった点を具体的に伝えたりする練習ができます。うまくいかなかったときは、無理に褒める材料を探さなくても構いません。
難しかったことを聞き、次に必要な手助けを本人と相談する関わり方も試してみましょう。
アドラー心理学を家族に理解してもらうにはどうすればよいですか?
最初から理論への賛成を求めるより、自分の伝え方を一つ変えることから始めてみてください。例えば、家事をしてくれないと責める代わりに、何が負担で、どの作業をお願いしたいかを具体的に伝えます。
そのうえで、相手の都合や考えを聞く時間を設けましょう。あなたは課題の分離ができていない、と学んだ用語で評価する使い方は避けてください。
考え方を共有したい場合も、短い具体例を紹介して感想を尋ねる程度から始め、読書や実践を無理に求めないことをおすすめします。
実践しても人間関係が変わらないときはどうすればよいですか?
まず、相手が希望どおりに変わることだけを成功の基準にしていないか、目標を見直してみてください。自分の希望を伝えられたか、引き受ける範囲を説明できたかなど、自分の行動も振り返りの対象にしましょう。
同じ方法を無理に続けず、伝える時間や依頼の具体性を調整しても構いません。難しいやり取りを短く記録し、信頼できる人に意見を求める方法もあります。
一人で整理できない場合は、相談先に具体的な状況を共有し、今後の関わり方や距離の取り方を一緒に考えてください。
相談内容や対応範囲を確認しながら、自分に合った支援を選びましょう。


