「勉強しなさいと言うほど、子どもが反発する」「任せたいけれど、宿題をしないままでよいのか不安」。子育ての中で、勉強への関わり方に迷う保護者もいるでしょう。
アドラー心理学を家庭で生かす際は、子どもを思いどおりに動かす方法ではなく、親子で協力するための考え方として捉えてみてください。大切なのは、勉強をすべて親が管理することでも、子どもに丸投げすることでもありません。
この記事では、勇気づけや課題の分離をやさしく説明し、宿題、テスト、ゲームなどの場面で使える声かけを紹介します。具体例は家庭で試すための提案であり、年齢や理解度、本人の希望に合わせて調整してください。
アドラー心理学を子育てと勉強に生かす基本
まずは「どうすれば勉強させられるか」から、「子どもが学ぶために、親は何を支えられるか」へ問いを変えてみましょう。この記事では、すぐに机に向かわせることだけを目標にせず、困ったときに相談できる関係も大切にします。
難しい用語をすべて覚える必要はありません。「勇気づけ」と「互いを尊重する関係」を入り口に、いつもの会話を少しずつ見直していきましょう。
勇気づけとは、結果ではなく取り組む力を支えること
アドラー心理学でいう勇気づけは、単に元気が出る言葉をかけることではありません。自分にもできることがあり、周囲と協力しながら課題に向き合えると思えるように支援する考え方です。
勉強の場面では、点数だけで判断せず、子どもが実際に行ったことを言葉にしてみましょう。例えば「昨日は迷っていた問題を、今日は図にして考えたんだね」と、目の前の工夫に目を向けます。
途中で手が止まっていても、「ここまでは自分で進めたんだね。次はどこを一緒に考えようか」と伝える方法があります。
このとき、努力を無理に探して持ち上げたり、実際には見ていないことを褒めたりする必要はありません。「どう考えたのか聞いてもいい?」と、本人の説明を待つだけでもよいでしょう。
また、励ました直後に「だから、あと十問できるよね」と要求を追加するのは避けたいところです。声かけを勉強量を増やす取引にせず、できたことと次に取り組むことを分けて話してください。
子どもが「今日はもう無理」と答えたなら、まずその言葉を受け止めましょう。そのうえで、休むのか、量を減らすのか、助けを求めるのかを一緒に検討します。
親子は対等な存在でも、担う役割は同じではない
アドラー心理学に基づく子育てでは、子どもも尊重される一人の人として扱い、親子の相互尊重を大切にします。ただし、親が導く役割を手放したり、家庭の決まりをすべて子ども任せにしたりするという意味ではありません。
例えば、勉強を始める時間について、親は食事や就寝の予定を伝え、子どもは遊びたい時間や宿題の量を話します。そのうえで「夕食までに少し進めるか、食後にまとめて取り組むか、一緒に考えよう」と相談してみましょう。
親が困っていることも、我慢して隠す必要はありません。「夜遅くなると一緒に問題を見る時間が取れないから、手伝ってほしい日は早めに教えてほしい」と、自分の事情として伝えます。
一方、「親の言うことだから正しい」「そんな考え方ではだめ」と、立場の強さで結論を押し通す言い方は控えましょう。意見が違うときほど、子どもの希望と親の心配を別々に確認してください。
また、勉強の成果を家族の中での居場所や愛情の条件にしないことも、家庭で意識したい点です。点数が悪かった日も普段どおりに会話し、成績とは関係のない時間を一緒に過ごしましょう。
勉強は誰の課題?課題の分離と放任の違い
「勉強は子どもの課題」と聞くと、親は口を出さず、何が起きても見守るだけだと考えるかもしれません。しかし、ここでは課題の分離を、親子がそれぞれ何を担い、どこで協力するかを整理する手順として扱います。
宿題を代わりに解くことと、問題文を一緒に読むことは、同じ手助けではありません。本人に任せる部分と、取り組めるように支える部分を具体的に分けて考えましょう。
子どもの学習を肩代わりせず、必要な援助をする
日本で広まった「課題の分離」は、アドラー自身が直接提唱した言葉ではなく、後の実践の中で整理された考え方です。課題を切り離して終わるのではなく、責任を整理したうえで協力するための準備として理解しましょう。
宿題であれば、実際に考えて解くのは子どもですが、親には学習環境を整え、必要な支援を検討する役割があります。「あなたの問題だから知らない」と伝えることは、この記事で提案する関わり方ではありません。
例えば、漢字の宿題が進まないときは、書く量が多いのか、読み方が分からないのか、取りかかる順序に迷っているのかを尋ねます。「何を手伝ってほしい?」に答えられなければ、「最初の一文字を一緒に見る?」と具体的に提案してください。
手伝う範囲は、最初に小さく決めておくとよいでしょう。「最初の問題は一緒に考えて、次は自分で試し、難しければ呼んでね」というように、援助と本人の取り組みをつなぎます。
提出が難しそうな場合も、困らせるために放置するのではなく、どう対応するか相談しましょう。本人の状況に応じて、先生への伝え方を一緒に考えたり、保護者から学習上の困りごとを共有したりする選択肢があります。
「自分で決めてよい範囲」を分かりやすくする
子どもに任せるときは、いきなり「全部自分で考えて」と求めるのではなく、選べる範囲を具体的に示してみましょう。例えば「国語と算数のどちらから始める?」「机と食卓なら、どちらが取り組みやすそう?」と尋ねます。
ただし、選択肢の形を使っても、どちらかを選ぶまで責め続けるなら、十分に話し合ったとはいえません。子どもが「どちらも嫌だ」と答えた場合は、その理由を聞く余地を残してください。
「問題が分からない」と言うなら、開始時間よりも内容の確認を優先しましょう。「今は疲れている」と言うなら、休憩を取ってから始める案を一緒に考えます。
また、親が譲れない条件は、後から追加せず、最初に伝えておくことをおすすめします。「寝る時間は大きく変えない」「親が手伝えるのは夕食前まで」など、家庭の事情も含めて相談してください。
選んだ計画がうまくいかなかったときは、「自分で決めたのだから絶対に守って」と責めず、何が難しかったか振り返ります。見通しが甘かった部分を一緒に直し、翌日は量や時間を変えて試しましょう。
本人に決定を任せることと、決めた後の困りごとまで一人で背負わせることは分けて考えてください。
勉強しない子への声かけを場面別に考える
考え方を理解していても、宿題が進まない夕方や、テストが返ってきた直後には、言葉が強くなることもあるでしょう。そんなときは、気の利いた一言を探すより、まず事実と親の想像を分けてみてください。
「机に向かっていない」は観察できる事実ですが、「やる気がない」「親を困らせたい」は解釈です。ここからは、よくある二つの場面を使い、会話の進め方を具体的に紹介します。
宿題を始めないときは、理由を決めつけずに尋ねる
アドラー心理学では行動の目的に注目しますが、勉強しない姿を見て「親の気を引きたいだけ」と決めつけないようにしましょう。行動の背景を考える際には、学習上の難しさなど、別の要因も確かめる必要があります。
声をかけるなら、「まだ宿題を開いていないね。今、始めにくい理由はある?」と、確認から入ってみてください。
子どもが「分からない」と答えても、すぐに「やれば分かる」と返さず、何が分からないのか一緒に見ます。問題の意味なのか、解き方なのか、どの教材を使うのかによって、提案する手助けを変えましょう。
「全部やるのが嫌」と言われたら、「まず問題を一緒に見て、始めるところを決めよう」と提案できます。「一問だけ試してから続きを相談する」など、その日に試す小さな入り口を用意してもよいでしょう。
反対に、声をかけるほど言い合いになる場合は、その場で結論を出そうとしないでください。「今は話しにくそうだから、少し後で相談したい」と伝え、落ち着く時間を取りましょう。
親の声かけを減らす場合も、無言で方針を変えるのではなく、確認する時間を親子で決めておきます。「夕食前に一度、困っていることがないか聞くね」と、支援の仕方を共有してください。
テストの点数が低いときは、評価より振り返りを優先する
テストを見た直後は、「どうしてこんな点なの」と原因を問い詰める前に、子どもの受け止め方を聞いてみましょう。「自分ではどうだった?」「難しかったところはどこ?」という問いから始めます。
本人が落ち込んでいるなら、その日のうちに反省会をする必要はありません。「悔しかったんだね」と受け止め、答案を見直す時間は改めて相談してください。
振り返るときは、点数全体ではなく、一つの問題や間違い方に注目します。例えば、計算方法を理解していないのか、問題文の条件を見落としたのかを、答案を見ながら一緒に確かめましょう。
そのうえで、「次は何を試してみたい?」と、本人の案を聞いてください。思いつかなければ、「似た問題を一問解く」「先生に質問する」などを親から提案し、取り組めそうなものを選びます。
よい点数だったときも、「次も必ずこの点を取って」と新しい条件を課すのではなく、本人の喜びを分かち合いましょう。「どの勉強が役に立ったと思う?」と聞き、次にも使いたい工夫を確認する方法もあります。
テストは、子どもの価値を決める材料ではなく、次に学ぶ内容を相談する材料として扱ってみてください。兄弟や友達との比較ではなく、本人が何を理解し、どこに支えが必要かに目を向けます。
自主性を尊重しながら家庭学習を整える方法
声かけだけを変えるのではなく、勉強を始める場所や時間、教材の量も親子で見直してみましょう。この記事では、自主性を「大人の助けなしに何でもできること」ではなく、必要な支援を受けながら自分も判断に参加することとして考えます。
最初から毎日同じ計画を守ることを求めず、短い期間で試して調整してください。ゲームの扱いと、年齢や理解度に応じた手助けを例に説明します。
ゲームと勉強の約束は、落ち着いているときに決める
ゲーム中に突然「今すぐやめて勉強しなさい」と伝える代わりに、始める前の時間に、その日の予定を相談してみましょう。宿題だけでなく、遊び、食事、入浴、就寝も含めて、使える時間を確認してください。
例えば「夕食までに宿題を進めたいけれど、遊ぶ時間はどうしたい?」と、親の希望と本人の希望を出し合います。ゲームの途中で止めにくい場面があるなら、どこを区切りにするかも本人に説明してもらいましょう。
約束は「ちゃんと勉強する」ではなく、「食卓で算数を一問始める」など、何をするか分かる形にします。タイマーや予定表を使う場合も、親が監視する道具ではなく、本人が予定を確かめる道具として提案してください。
守れなかった日は、その場で翌日の楽しみをすべて取り上げるのではなく、予定との差を振り返りましょう。「終わる時刻を忘れた」「問題が予想より難しかった」など、実際に起きたことを聞きます。
そのうえで、翌日は開始時刻を変える、教材を先に出しておく、親が一度だけ知らせるといった修正を相談してください。決めた約束を守らせることだけに集中せず、その計画で生活が回るかを親子で点検します。
なお、休憩や家族との会話まで、勉強を終えた人だけの特典にしないよう配慮しましょう。
年齢ではなく「今できること」に合わせて手助けを調整する
学年だけを基準にして「もう一人でできるはず」と決めず、本人がどの作業までできるかを確かめましょう。教材を出す、問題文を読む、解く、提出物をしまうというように、勉強を細かい動作に分けて見てみます。
小学校低学年の子には、最初の数分を一緒に過ごし、始め方を確認する方法を試せます。「今日は何が出ているかな」と連絡帳を見て、取り組む順序を相談してから、必要に応じて距離を取ってください。
高学年以降でも、計画を立てる部分に手助けが必要なら、その部分だけ一緒に考えて構いません。反対に、自分で進められる作業には毎回口を出さず、本人が選んだやり方を試す時間を設けましょう。
中学生であれば、毎日の細かな確認を減らし、週末に短く予定を見直す方法も候補になります。「どこまで共有したいか」「親に何を手伝ってほしいか」を先に聞き、確認する範囲を相談してください。
どの年代でも、手助けを減らすこと自体を成功の基準にしなくてよいのです。本人が落ち着いて学べるか、困ったときに援助を求められるかも、振り返る項目に加えましょう。
負担が大きくなったら、一度減らした支援を戻しても構いません。自立を急がせるより、その時点で必要な支えを親子で確かめてください。
アドラー心理学の子育てで避けたい誤解と困ったときの対応
アドラー心理学を学んだからといって、親がいつも穏やかに対応できるとは限りません。「褒めてはいけない」「怒ったら失敗」と、新しい禁止事項を自分に増やさないようにしましょう。
勉強の困りごとを、親の接し方だけで解決しようとしないことも大切です。最後に、考え方を極端に使わないための注意点と、家庭だけで抱え込まないための相談の進め方を紹介します。
褒めることを禁止せず、親の感情も立て直す
アドラー心理学に基づく子育てでは、大人からの評価や報酬で動かすことより、本人の内側の自信を支える勇気づけを重視します。ただし、家庭で実践するときに、喜びを伝える言葉まで機械的に禁止する必要はありません。
「できてうれしいね」と一緒に喜んだり、「どんなふうに考えたの?」と関心を示したりする方法を選んでみましょう。「すごいと言ってはいけない」と言葉を監視するより、結果だけで子どもを扱っていないかを振り返ってください。
ご褒美についても、一度使ったらすべて間違いだったと考えず、今の約束を確認するところから始めます。すでに約束したものを一方的に取り消すのではなく、次からどうするかを別の機会に相談しましょう。
また、強く叱ってしまったときは、勉強の話と、親の言い方の問題を分けて謝ってください。「大きな声で責めたことはよくなかった」と、自分がしたことを具体的に伝えます。
「でも、あなたが勉強しないから」と続けず、まずは謝罪をそこで終えましょう。予定や宿題の相談は、お互いが落ち着いてから再開します。
親自身が疲れている日は、「今は落ち着いて話せないので、少し時間がほしい」と伝えても構いません。完璧な声かけを目指すより、言い直しや相談のやり直しができる関係を目標にしてください。
困りごとが続くなら、学び方や支援の条件を相談する
声かけを変えても勉強が進まないときは、保護者の努力不足と結論づけず、家庭で分かることと分からないことを整理しましょう。「どの教科でも難しいのか」「読む作業と書く作業では違うのか」など、具体的な場面を記録してみてください。
例えば、「やる気がない」ではなく、「音読はできるが、書き写す課題で手が止まる」と書き留めます。勉強に使った時間だけでなく、本人が話した困りごとや、試した手助けも残しておくと、相談時に伝えられます。
学校の担任に相談するときは、家庭での様子を共有し、授業中はどうかを尋ねてみましょう。「家で何を追加すべきか」だけでなく、「今の課題量や説明の仕方が本人に合っているか」も話題にしてください。
必要に応じて、スクールカウンセラーや教育相談の窓口につないでもらう方法も検討できます。子どもには「できないから相談する」のではなく、「取り組みやすい方法を一緒に探したい」と説明してみましょう。
アドラー心理学の考え方だけで、成績向上や勉強習慣の定着を保証することはできません。まずは今日の一場面で、命令する前に困っていることを聞き、本人が選べる小さな一歩を相談してください。
子どもが自分で考える部分を残しながら、必要な支えは惜しまないことを、家庭での基本方針にしていきましょう。
よくある質問
アドラー心理学では「勉強しなさい」と言ってはいけないのですか?
特定の言葉を禁止するルールとして考える必要はありません。まずは、繰り返し命令する代わりに「今日はいつ始める予定?」「始めにくいところはある?」と確認する方法を試してください。
学校の提出期限や、親が手伝える時間を伝えることまで控えなくて大丈夫です。ただし、一度尋ねてすぐに動かなかったからと責めず、本人の返事を聞く時間を取りましょう。
声かけの回数で言い合いになるなら、確認する時刻を一緒に決め、必要な支援をその時間に相談してみてください。
課題の分離をすると、子どもがまったく勉強しなくなりませんか?
課題の分離を理由に、今日から突然すべての支援をやめることはおすすめしません。まず、親が行っている確認や手伝いを振り返り、本人ができる部分と、まだ支えが必要な部分を分けてみましょう。
例えば、問題を解くのは本人に任せながら、教材をそろえるところは一緒に取り組む方法があります。任せた後も、困ったときに頼れることを伝えてください。
勉強が止まったら放置するのではなく、量や難しさ、予定の立て方を再確認し、必要な支援を親子で調整しましょう。
よい点数を取ったときに褒めたり、ご褒美をあげたりしてもよいですか?
よい結果を一緒に喜ぶことまで控えなくて大丈夫です。「うれしそうだね」と気持ちを共有し、「どんな準備が役に立った?」と本人の取り組みに関心を向けてみましょう。
ご褒美を使う場合は、点数が低いと愛情や日常の楽しみまで減るような扱いになっていないかを確認してください。すでにした約束は、一方的に取り消さず、今後の決め方を別の機会に相談しましょう。
報酬の有無だけで判断するより、本人の希望を聞き、学ぶ内容や取り組み方についても会話することをおすすめします。
小学校低学年でも、宿題はすべて本人に任せるべきですか?
最初からすべてを一人で進めることを目標にしなくても構いません。連絡帳を見る、教材を出す、問題を読むといった作業のうち、どこで助けが必要かを一緒に確かめてください。
例えば、最初の一問は一緒に考え、次は本人が試すという分担にできます。親が答えを先回りして教えるのではなく、必要なときに相談できる距離で見守りましょう。
学年だけを基準にせず、その日の疲れや課題の難しさも踏まえて調整してください。手助けを減らした後に難しそうなら、一度支援を戻しても大丈夫です。
声かけを変えても勉強しない場合は、どうすればよいですか?
すぐに別の声かけを増やすより、どの場面で止まるのかを具体的に確認してみてください。教科、作業内容、取り組んだ時間、本人が話した困りごとを簡単に記録する方法があります。
その記録をもとに担任へ相談し、学校での様子や、課題量・説明方法を調整できるかを尋ねてみましょう。必要なら、スクールカウンセラーや教育相談の窓口への相談も検討してください。
家庭だけで解決することにこだわらず、本人を責めない形で、取り組みやすい条件を周囲の大人と探していきましょう。
親子に合う支え方を、一緒に整理するところから始めてください。


